コクリバ 【完】
外はもう暗くなっていて、寒さが増している。
ダウンコートぐらい着たいところだけど、そんなに遅くなる予定ではなかったから、普通のコートしか持っていない。

先輩はどこに行くつもりなんだろう。

カフェ・ド・マティスから更に奥の住宅街に進んでいく先輩の後を追うと、角を曲がったところにあったのれんの前で立ち止まった。

『喜八』

のれんにはそう書いてあるだけ……

先輩がおもむろにのれんをくぐり、黒い引き戸の扉を開けた。

和食屋?
中から美味しそうな香りが漂ってくる。

店員さんに先輩が何か言うと、私たちは奥の座敷に案内された。

掘りごたつ式になってるテーブルの奥に、先輩が胡坐をかいて先に座るから、私も下座におとなしく座る。

デートしているような、旦那様についてく奥さんのような、そんな雰囲気。
なんだか、照れてしまう。

「マスター、良い店知ってるな」

お品書きを見ながら、先輩の左頬が嬉しそうに上がっている。

「マスターに聞いたんですか?」

「あぁ。あの人、あとから本当に来そうだな」

ニヤリと笑った先輩は、それを嫌がっていないように見える。
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