コクリバ 【完】
「俺に、すぐにでも奈々のところに行けって言ったのはあいつだよ」

「吉岡が?」

「おまえが待ってるって……あれからずっと待ってるから行ってくれって……あいつに言われて来るのは腹が立つけどな」

「……待ってないです」

「え?」

「待ってなんていません」

手が震えている。
自分しか分からないくらい小刻みに震えている手をギュッと握った。

「……」

「……」

「そうか……」

「……」

なんでそんな切なげな声で言うんだろう。

胸がキリキリと痛む。

「やっぱり待ってる訳ないよな……」

なんで今更そんなこと言うの?
なんでそんな辛そうな声で……

「先輩……」

「もう“先輩”はやめろよ。高校生じゃねーし」

「……高木さん」

「はっ……随分他人行儀な呼び方だな」

「じゃ、なんて呼べば……」

「知らねーよ」

先輩がビールを煽った。

なんで先輩が怒るんだろう。

怒りたいのはこっちだ。
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