コクリバ 【完】
胸が痛い。
もしかして、先輩はずっと悩んでいたんだろうか
ずっと私を憎んでいたんだろうか
6年も、バスケさえしないで……

「どうしよう…」
「奈々。教えろ。高木に何かしたんなら俺が謝ってやるから、おまえまだ高木のことが好きなんだろ?」
「ううん。違う。もう好きじゃない」
「は?」
「……先輩がまだ高校にいたころ少しだけ付き合ってた」
「あぁ。それは知ってる」
「先輩は私が浮気したと誤解して……それだけ」

言葉にするとあっけないくらい少ない私たちの過去。
その間にどれくらい泣いたかとか、一切関係ない。

「それだけか」

そう。それだけ。
だけど、たったそれだけのことに未だに捕らわれてて、次の恋愛に進めないでいるのも事実。
捕らわれたくないと思う反面、こんなに揺れてしまうってことは忘れたくないとでも思っているんだろうか私は

「奈々。高木にあの日、あのおまえが足を捻挫した日、乱暴されたのか?」
「ううん。捻挫した私を家まで運んでくれただけ。それでテーピングしてくれたの」
「じゃ、なんで服までボロボロだったんだ?」
「それは…その前に、捻挫したとき、ちょっと他の子にやられて…?」
「は?誰だ」
「違うの。それも誤解だったんだけど。女の人だよ。4人くらいに囲まれて……名前も知らない人たちだよ」

おもいっきり眉間にシワを寄せた兄の顔が怖い。タチの悪い教師だと思う。
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