コクリバ　【完】
兄の早とちりに振り回されたけど、そのおかげで高木先輩に会えたのかもしれない。

立ち上がりかけた兄がふとその動きを止めた。

「高木とは？」
「何？」
「本当にやり直さないのか？」
「……何も言われてない」
「そうか」
「もう、いいよ。もう、６年前に終わったことだよ。今更、高木先輩と何かあるなんて、そんな可能性なんて……」
「奈々。高木が好きなんだろ？」
「……ううん。好きじゃない」

もう、辛い期待はしない。

あの頃の私とは違う。

先輩の横にいた頃の私じゃないし、“俺のもの”って言われた頃の私じゃない。


兄はまだ「バカなことするなよ」とか言いながら帰っていった。

兄の誤解も、高木先輩の誤解も解けて嬉しかったけど、今更、何も変わらない。

ただ、一つ良かったと言えるのは、高木先輩が本当のことを知ってくれたということ。

それだけは、シコリのように心の奥にいつも重く引っかかっていたから。



だからそれが解消できて、嬉しいはずなのに……

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