コクリバ 【完】
落ち着かない―――

「この夏の川遊びは……」
「はい……」

洋祐先生と仕事の話をしているだけなのに―――

「じゃぁ、これは外せないか……」
「そうですね……」

洋祐先生の視線の一つ一つが気になって―――

「お店やさんごっこをこっちにずらせないかな……」
「そしたらバザーとかぶります……」

落ち着かない―――

「そうか…なかなか考えてあるな…」
「お店屋さんごっことバザーを同じ日にやってみたらどうですか?」

口実って言葉も言いっぱなしだし―――

「あー。それは良い案だね。奈々」
「……」

―――えっ?呼び捨て?

目を見張り、距離を取ろうと後ろに下がると、手首を掴まれた。
慌ててその手を振りほどいた。

心臓がバクバクうるさい。

「この前は手を繋ぐことは許してもらえたのにね」
「……」
「……」
「……」

沈黙が痛い。

洋祐先生が「はぁ」と大きくため息をついた。

「やっぱり私はこういうのが苦手で……今年は、初めて幼稚園の方に携わるから、こういうのは……ましてや、園の先生になんて……ダメだとは分かってるんだけど……」

洋祐先生がゆっくりと眼鏡を外してテーブルに置き、何も遮るものがない目が私を捉える。

「あの、洋祐先生。仕事の話に戻しましょう」
「あなたが気になって仕方がない」
「……」

え?

「ずっと私の側にいてくれませんか?」
「……」

えーーーーーー!
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