コクリバ 【完】
「今日はありがとう」
市原先輩は本当にイチゴミルクを買ってきてくれた。

「また頼むよ」
更に微笑んだ先輩から顔を背けて、
「本当に私でいいんですか?」
また同じことを聞いた。

クスリと笑う先輩。

「あぁ。もう奈々ちゃん以外は考えてないよ。だから自信を持って。
今日の表情、良かったよ。なんか掴めそうなんだ」

見る?
と聞かれて、先輩が今日描いてたデッサンを見せてもらう。

最初の数枚はさすが先輩と思うくらい、緻密な線で写真のような私が描かれていた。
でも途中の一枚を境に、線が乱れ、書き直しも消されず、荒々しい絵に変わっている。

だけどその絵は、物悲しくて、胸が締め付けられるようで……

「先輩……」

市原先輩は、好きな人がいるんだと思う。
先輩の恋は、たぶん切ない恋愛。
片想いなのかもしれない。

だけど、それを聞いてはいけないような気がした。

「奈々ちゃん。またよろしくね」

先輩が無理して微笑むその姿に、また泣きそうになる。

「はい。私でよければなんでも協力します。だから先輩、絶対、最優秀賞取ってくださいね」

だから、市原先輩には、美術部の誰もが協力したくなるんだろう。

はっきり言われなくても絵を見れば、先輩が何か悲しい現実をその胸に抱えていることが分かるから

「高木には、俺からも頼むよ」

その一言で現実に引き戻された。
さっき高木先輩が迎えに来ると言ったのは、やっぱり私の妄想ではなかったみたい。

市原先輩の片付ける手がゆっくりなのは、先輩も高木先輩を待っているんだろう。

「先輩たち、仲がいいんですね」
「えっ?あぁ。同じクラスだからかな」
「そうなんですか…」
「……ごめん。本当は小学校からの腐れ縁」

少し照れたような市原先輩。
そんな表情初めて見た。
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