コクリバ 【完】
「そうなんですか?」
「俺もバスケ部だった。中学の頃から…」
「先輩が?」
「そう。だから緒方先輩のことも中学の頃から知ってた」
「そんな前から兄のことを……」
窓の外を見てる先輩の表情は優しげで、楽しかったんだろうなって分かる。
「高校に入って、一年の夏休みまでバスケ部だったよ」
「そうなんですか」
「緒方先輩は、よくキャプテンにイジラレてたよ。妹ネタで……」
中山さんのことだ。
クスッと私も笑った。
「それ、今もですよ」
「緒方先輩の妹、見てみたかったんだよね。まさか奈々ちゃんだとは思わなかったけど」
「すみません。期待外れで……」
「そんなことないよ」
「先輩はなんで美術部に?」
市原先輩の動きが止まる。
穏やかな空気を壊してしまったんだと、一瞬で分かった。
触れてはいけないことだったみたい。
「バスケ部がきつかったからかなぁ」
そう言って、先輩は立ち上がった。
それが本当の理由ではないのは明らか。
もう先輩は笑っていない。
無言で衝立を片付け始めた先輩を、私も黙って手伝うしかできなかった。