コクリバ 【完】

初めて

それから程なくして、高木先輩はやってきた。

開いた扉の外で、他所を向いたまま立っている。

これは、出て来いってことだよね

カバンを取り市原先輩に挨拶して、扉のところに行くと高木先輩は何も言わないで歩きだした。

「高木。奈々ちゃんをモデルとして貸してくれ」
市原先輩が美術室の中から呼び止める。

カシテクレ?

私は高木先輩のじゃないのに、なんだか腑に落ちない言い方だと思う。

だけど私が言い返す前に、
「本人がいいなら、いいんじゃねぇの」
高木先輩がぶっきら棒に言う。

かなり違和感を感じるけど何も言えない。
さっきとは何かが違うような気がする。

さっきは下の名前で呼びあってたのに

今度は高木先輩が階段に向かってまた一歩踏み出してから立ち止まって
「市原」
美術室の中に声を掛けた。

「なんだ」
「変な気、起こすなよ」
「あぁ?もちろんだ」

それを聞いた高木先輩は少しだけ肯くと歩き出した。

なんだろうこの雰囲気。
やっぱりおかしいと思う。
どこかよそよそしい。

余計なことは言わないでも通じ合っているようなそんな親しさもあれば、一つ言葉を間違えたらその関係が崩れてしまうような危うい緊張感。

だけど、そこに触れてはいけないんだということは分かった。

他人が入っていけない何かをこの二人は持ってる気がする。
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