コクリバ 【完】
先輩の腕の中でもがいているのに、私の中から赤い傘は消えなくて、

「…あ…もう……」

先輩が私の中に入ってきた瞬間、赤い傘が開いた気がした。

込み上がる感情に涙が止まらない。

先輩の腕にしがみつきながら、酸素を求めて、

「奈々……」

見上げると、先輩の顔は余裕がなくて、細められた目と開いた口が妖艶過ぎて、見続けていられなかった。

ずっと想い続けていたからなのか、この状況が素直が信じられなくて、

「ん…ん…」

何も考えられなくなって、

「あぁ……先輩!」

このまま熔けてしまいたくなる。

「はぁっ、おまえ、もう、それやめろ。名前で呼べ」
「あっ…セイヤ……」
「っ…奈々…」
「セイ、ヤ…」

身体の内側から駆け上ってくるものに、思考も何も支配されて、ただ目の前の男を感じた。

奪い合うように、求めあい、
埋め尽くすように、お互いを貪った。
< 470 / 571 >

この作品をシェア

pagetop