コクリバ 【完】
「それまでは来れねーかも」
「忙しいんですか?」
「あぁ。来週からまた出航だ」
「……」
「どうした?」
「メールしていいですか?」
「あぁ。電話よりいいかもな。電波が通じたらすぐに返信する」
「……」
「奈々」

離れることが不安になる。
このまままた会えなくなるんじゃないかと、膝が震える。

あの、辛い日々が始まるんじゃないかと……

知らずに高木先輩のコートを引っ張っていた。

「高木……さん」
「奈々。大丈夫だ。時間が出来たらすぐに会いに来る」
「うん」

大きな手が私の背中に添えられた。


駅前の地下駐車場。
その端にバイクが何台か止められている場所があった。
今までそんなところがあるとは知らなかった。

その中の黒いバイクの前で高木先輩は立ち止まり、慣れた手つきでヘルメットを外している。

「奈々。一人で帰れるか?」
「……うん」

これまでだって一人だったのに、それがとても寂しいことのように感じる。
こんなに離れがたいとは思わなかった。

バイクに跨った高木先輩の横にピタリとくっついた。

「どうした?離れたくないか?」

私は微かに首を縦に振る。

「俺もだ」
「また、会えるよね?」
「あぁ。すぐに会いにくる」
「うん」

片腕で引き寄せられ、頬に唇が触れるのを目をつぶって感じていた。
この温もりを忘れないように……

ヘルメットを被り、手袋をはめる姿がカッコいい。
先輩にはバイクが似合う……

「連絡する」

その言葉を合図に大きなエンジン音が鳴り、黒いバイクがゆっくり動き出した。
小さくなる後ろ姿とナンバー。

407

教えてもらったメールアドレスだと帰りの道で気付いた。

「どれだけバイクが好きなんだ」

昨日まで当たり前だった一人暮らしの部屋が、今日はすごく寒い。
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