コクリバ 【完】
あれから数年経った今でも、この時の高木先輩の顔を、鮮明に覚えている。
最初、驚いたように見開かれた切れ長の目が、
すぐに私から右下の川へ視線を移し、
その後、大きな手のひらがその口を隠した。
もう薄暗くなった空を仰いで、
その顔がまた私に戻ってきたとき、
優しい眼と、左頬が笑っていた。
「うちの高校の?」
「っはい」
「今の?」
「はい」
刑事は、私が白状したのにまだ執拗に追い詰めるから、恥ずかしくて耳まで熱くなっていく。
「緒方奈々」
「はい!」
もうどうにでもしてくれ。
「そういうのは男から言わせろよ」
「はい…あ、すみません」
こんな状況、初めてな私は、駆け引きなんて出来る訳ない。
「行くぞ」
あれ?
と、思ったときには、先輩はもう自転車を動かしている。
「先輩」
「なんだ?」
「あの。それだけですか?」
「……なにが?」
後ろを振り向いてもくれない。
「いえ…じゃ、いいです」
「あとでな」
なんで?
何を後に伸ばす必要があるんだろう。
「あ、先輩」
「なんだよ」
「そのCD。ありがとうございました」
受け取ろうとして、隣に並んだ。
「いるのかよ」
「はい。まだ聞いてないので」
「他の奴から貰った物を?」
「え?あ…」
受け取ろうと伸ばした手は無視された。
でも、もしかしたら、これって嫉妬ってやつ?
「吉岡に返しといてやる」
嫉妬されるのって、嬉しいもんなんだ、っていうのも
この日、初めて知った。
最初、驚いたように見開かれた切れ長の目が、
すぐに私から右下の川へ視線を移し、
その後、大きな手のひらがその口を隠した。
もう薄暗くなった空を仰いで、
その顔がまた私に戻ってきたとき、
優しい眼と、左頬が笑っていた。
「うちの高校の?」
「っはい」
「今の?」
「はい」
刑事は、私が白状したのにまだ執拗に追い詰めるから、恥ずかしくて耳まで熱くなっていく。
「緒方奈々」
「はい!」
もうどうにでもしてくれ。
「そういうのは男から言わせろよ」
「はい…あ、すみません」
こんな状況、初めてな私は、駆け引きなんて出来る訳ない。
「行くぞ」
あれ?
と、思ったときには、先輩はもう自転車を動かしている。
「先輩」
「なんだ?」
「あの。それだけですか?」
「……なにが?」
後ろを振り向いてもくれない。
「いえ…じゃ、いいです」
「あとでな」
なんで?
何を後に伸ばす必要があるんだろう。
「あ、先輩」
「なんだよ」
「そのCD。ありがとうございました」
受け取ろうとして、隣に並んだ。
「いるのかよ」
「はい。まだ聞いてないので」
「他の奴から貰った物を?」
「え?あ…」
受け取ろうと伸ばした手は無視された。
でも、もしかしたら、これって嫉妬ってやつ?
「吉岡に返しといてやる」
嫉妬されるのって、嬉しいもんなんだ、っていうのも
この日、初めて知った。