コクリバ 【完】
案内された居住空間とやらは、2段ベッドがたくさん並んだ場所で、

「ここが談話室です。だいたいここか食堂で休んでます」

堤さんがそう言って横にあるテーブルに座った。


高木先輩が奥へと歩き出したからついて行くと、

「ここが俺の」

そう言って二段になっている上のベッドに触れた。

まずその小ささと狭さに声が出ない。

綺麗に整理されているベッド上にはほとんど物はなかったけど、先輩が寝たら、足がはみ出るんじゃないかと思うくらい小さかった。

「このカーテンを閉めると、ここが唯一のプライベートな空間」

そう言って、綺麗に寄せられていた緑色の分厚いカーテンを引いた。

「これだけ?」

「そう。狭いだろ?座ったら上に頭がついてまともに座れやしねぇ」

そう言って左頬を上げた先輩と、狭いベッドを見比べた。


ここで、この人は生きてきたんだ。
そう思うととてつもなく大きなことを見逃していた気がする。

私はまだ何も知らない。

この狭い空間でずっとこの人は何を思っていたんだろう。

ずっとここで私のことを憎んでいたのかもしれない。

6年間、この場所で、女の人を信じられないで苦しんでいたのかもしれない。

それなのに、あの日、私に会いに来てくれた。

優しく抱きしめて、名前を呼んで、笑い合って……


「先輩……」

自然と口から洩れていた。

「驚いたか?」

高木先輩の左頬が上がっていたから、私も揺れる視界で微笑んだ。
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