コクリバ 【完】
そんな必要ある?と思ったけど、真理子先生はメモ用紙を取り出し携帯番号を書いてわざわざ山下さんに渡した。

それを見て、高木先輩とくすりと微笑み合った。

「じゃ、後で連絡するから」

そう言って高木先輩が歩き出す。
その後ろをすぐに典子先生がついていき、山下さんの後ろを真理子先生がついていった。

見送られながら私たちは自衛隊の基地を後にした。

自衛隊の基地の中での体験はそれぞれにとって衝撃的だったようで、4人とも無言で歩いてた。

仕事が違うと言ってしまえばそれまでだけど、本当に住む世界が違うんだと思う。
もちろん普段の話題も違うんだろう。

自分が平和な生活の中にいたことを、初めて感じた。

「どうする?とりあえず近くのショッピングモールまで歩こうか?」

ここからは歩くと20分くらいかかりそうな距離にショッピングセンターはあるのに、真理子先生はタクシーを使うとは言わなかった。

「そうね」

みか先生が髪を束ねながら真理子先生に続いた。


「典子先生」

私は前を歩いていた典子先生の横に並んだ。

「はい。なんですか?」
「勘違いだったらすみません。典子先生、高木さんのこと気になりますか?」
「……」

何も答えない典子先生は、そうだと言っているようで、私は目を閉じた。
暗くなった視界に甦るのは赤い傘。

パッと目を開くと、フッと息を吐いた。

「あの人だけは諦めてください」
「……」
「あの人だけは、譲れません」
「それは奈々先生が決めることじゃなくて、高木さんが決めることなんじゃないですか?確か妹って…妹みたいな存在という意味だと思いましたけど」
「そうですけど、だとしても、私はもう諦めません」
「……」
「すみません」

「付き合ってたんですか?」

私はこれまでのことを典子先生に話した。
それはショッピングモールに到着するくらいまで時間がかかったけど、過去のすれ違いと現在のすれ違い、それからの自分の気持ちを正直に話した。

それに対して典子先生は何も言わなかった。
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