コクリバ 【完】
ゆっくりゆっくり大きくなるその瞳。

もうアゴの下に手はなかったけど、私はそのまま上を向いていた。

先輩の顔が極限まで近づくと、私の瞼は自然に降りてくる。


唇に暖かい感触

なぜか涙が頬をつたった。


さっきまでの逃げ出したい気持ちは嘘のように、今は優しさが満ち溢れている。

再び触れる唇。

これが本当のキスだと思った。

コクリバでの時とは違う。

その暖かな感触が離れていく瞬間、寂しいと感じた。

もっと触れていたい
触れてほしい

無意識に手に力が入って、ギュっとトレーニングウエアを握りしめていた。
先輩はそんな私を上から覆いかぶさるように抱きしめた。

改めて感じる身長差。

「…奈々……」

切なげに名前を呼ばれて、震えるくらい嬉しかったのに、何も言えなかった。
< 54 / 571 >

この作品をシェア

pagetop