コクリバ 【完】
なんて言えばいいのか。

「ごめん」

本当は隠したくなかったんだけど、口止めされたのを破るわけにはいかない。
もし約束を破ったら、速攻この関係が終わるかもしれない。

「本当にごめん。何も聞かないで」
「えーーーっ」
「えっ?ほんと?」

その答えで二人は気が付いたみたいで、
「言うなって言われてるから、聞かなかったことにしてほしい」
焦って余計なことまで言ってしまう。

「いや。もう無理だし」
「いつから?」

……本当は言いたかったのかもしれない。

自分でも高木先輩の彼女になれてるとは思えなかったから、誰かに「大丈夫だよ」って言ってほしかったのかも。

誰にも言わないで、と念を押した後、二人に付き合うようになったと白状した。
だけど、言えることは、それだけしかない。
そんなに、何かあった訳じゃない。

「良かったね。奈々が高木先輩好きなの、分かってたよ~」
「高木先輩、かっこいいもんね。確かに他の人には言わない方がいいよね」

言って良かったと思った。
胸の中の黒い物が、一つなくなったような気がする。

3人でホッとしていたら、部屋をノックする音が聞こえた。

「来た!」

誰が来た?
誰が呼び出される?

緊張の中、無言のやり取りを視線だけで交わして、3人ともドアにダッシュした。

絢香がドアを開けると、
「そろそろ飯に行かないか?」
兄、智之の声だった。

「はぁ~」
「あ~、ドキドキした」

緊張が一気に解けた。

ホッとしたのと残念なので3人で笑ってしまった。

「今、行くー」

外の声に返して、私たちは夕飯へと向かった。
< 64 / 571 >

この作品をシェア

pagetop