コクリバ 【完】
こんな感情、初めて。
切れ長の瞳を意地悪く細め、左頬だけで笑っているこの人が、たまらなく愛しいと思った。
もう離れられない。

気付くと先輩の頭を抱きしめていた。

「奈々……嬉しいけど、ヤバい…」

ククっと笑いながら高木先輩が私を離す。

「すみません!」

なんて大胆なことを。

「明日は、俺だけ見てろ」

立ち上がった先輩が口にしたのは感動的な言葉。
だけどもうバスケ部キャプテンの顔に戻っていることに気付いた。
これだけの自信があるから、みんなを引っ張ってこれたのかもしれない。

「はい」

私が笑顔で答えると、先輩は少し照れたようだった。

耳を引っ張っている。

「じゃ、戻るな」
「下まで送ります」
「いや。緒方先輩に見つかったら、殺されるから…」

先輩がそう言うから二人で笑った。

バスケの試合のときとはまた違うカッコ良さで、
私だけにそれが向けられているのが不思議で、
でも、幸せだった。
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