好きな人の弟を、利用した
うーん。と唸っていると、
「みんなお疲れ様。無事、間に合った事だし、この後予定がないヤツは俺に付いて来い。奢ってやるぞ」
と言う部長の一言で、オフィスに歓声が上がる。
部長は優しくて人気者だから、大半が付いて行くだろう。
私も行きたかったけど、今夜は佑くんを誘いたかったし、私はみんなとは別で帰り支度を始めた。
「たす━━」
「あ、杉崎は強制参加な。歓迎会も兼ねるから」
と、私が佑くんに声をかける前に部長が言った。
「えっ……」
私と佑くんが、同時に声を上げる。
(そ、そんな……)
ガクッと項垂れた。
じゃあ、今日はもう佑くんと話が出来ないじゃないか。
(なんて間の悪いっ!)
顔を上げると、佑くんは既に部長と男子社員に囲まれて、オフィスから出て行く所だった。
「何やってるの?松山さんも行こうよ?」
隣の席の天野さんが、私の肩を叩く。
「あ……うん……」
……しょうがない。話は明日でも出来る。
そう思った途端に気が抜けて、口から魂が出てしまうんじゃない?と言う様なため息が漏れた。