好きな人の弟を、利用した
ある日、会社で中途採用の面接が行われていた。

たまたま面接会場の近くを通った僕は、ある女性に目を奪われた。

壁に沿って並べられた椅子に、リクルートスーツを着た男女数人がソワソワしながら座っている。

その中で、凛と姿勢を正し、目の前を真っ直ぐに見据える一人の女性。

そんな出で立ちが逆に目立っていて、早く届けなければいけない書類があるのにも関わらず、僕はその人に見入ってしまった。


『次の方どうぞ━━』


と言う声が聞こえて、その女性がスッと立ち上がる。

しかし、足を踏み出した瞬間、何かにつまずいて転びそうになった。


『危ないっ!』


その場にいた全員がそう叫ぶと、間一髪転倒を免れたその女性は、ペロッと舌を出して顔を真っ赤にしていた。

クスクスとみんなが笑い合う。

どうやら緊張が解れた様だった。

その女性は一つ咳払いをして、面接会場の部屋に入っていった。

誰かなんて全然分からないけど、受かれば良いな、とその時強く思った。
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