好きな人の弟を、利用した
色々話している内に、彼女の話になった。

あんまり聞きたくなかったけど、佑くんがまた寂しそうに笑うから、聞いた。


『こんな噂があるんです。夏夜さん、本当は僕じゃなく、昴を好きなんじゃないか、って……』

『え……?』

『いやっ、そんな噂、信じてないんですけどね。僕は夏夜さんを信じていますから……』

『佑くん……』


その話を聞いてあたしは、そう言えば……と、ある事を思い出す。

佑くんに彼女が出来たと噂が流れた時、どんな人なのか、少しの間観察していた事がある。

その時、彼女の行動に、何度か疑問を持った。

切なそうに見つめる視線の先に、佑くんとは違う人。


それは、佑くんの兄の昴だった。


最初は見分けが付いていないのかと思っていたけど、その時は佑くんはまだイメチェン前で、間違えようがないハズ。

だとしたら、あれは……。


そう思った瞬間、全てが合致した。


……多分、今佑くんが言った噂は、本当だと思う。


『松山 夏夜』が好きなのは、兄の昴の方なんだ。

だから二人の間には、恋人同士の雰囲気が微塵も感じられなかった。
< 322 / 334 >

この作品をシェア

pagetop