好きな人の弟を、利用した
お店を出ると、ナゼか松山 夏夜がいた。

動かないでこちらを凝視したまま固まっている。

佑くんは気付いていない。

あたしは見せ付ける様に、酔ったフリをして佑くんの腕にガバッ!と抱き付いた。

佑くんが困っていたけど、あたしは止めなかった。

佑くんが、松山 夏夜の存在に気が付き、双方で固まる。

松山 夏夜が走り出した。


『夏夜さんっ!』


佑くんが追い掛けようとあたしの手を振り払った時、あたしはバランスを崩してその場に尻餅を付いてしまった。


『痛ったぁい!』


そう叫んだら、佑くんはピタッと足を止め、転んだあたしと逃げた松山 夏夜の方を交互に見る。


『佑くん!助けてよ~』


甘える様に両手を伸ばすと、佑くんは小さくため息を吐き、手を引っ張って立ち上がらせてくれた。


『ありがと♡』


あたしはそのままの勢いで抱き付く。


『……離して下さい』


想像以上に冷たい声に、心が痛んだ。


『もー。ノリ悪いなぁ……』


パッと佑くんから離れて、悪態をついた。

そうじゃないと、泣きそうだった。


『じゃ!あたしこっちから帰るから!またね、佑くん♡』


投げキッスをして、来た道とは違う方に歩き出す。

少し歩いて振り向いたら、もうその場に佑くんの姿はなかった。

……多分、松山 夏夜を追い掛けに行ったんだと思う。


あたしは、来た道を戻る。


だって、初めて来た場所だから、来た道を戻らないと帰れない。


『……っ……うっ……』


一生懸命堪えていた涙が、溢れ出す。

拭っても拭っても止まってくれないから、メイクが崩れ様が目が腫れようが、構わずそのまま泣いた。
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