好きな人の弟を、利用した
『━━やめてよっ!!』
松山 夏夜が叫ぶ。
その声に店員が慌てて駆け込んで来た。
だけど部長さんがスマートな対応をしてくれたお陰で、店員は持ち場に戻って行った。
それから、皆の視線が松山 夏夜に集中する。
しかし、何を弁解するでもなく、松山 夏夜は部屋から出て行ってしまった。
『ちょっとやり過ぎじゃない?』
『近藤 和架子、怖っ!』
ヒソヒソとそんな声が聞こえたけど、あたしは気にしなかった。
だって、悪いのは松山 夏夜の方だ。
『佑くん。分かったでしょ?あの女の本性が。弁解もしないで行っちゃったじゃない。本当の事を言われたから言い返せなかったのよ』
再度、佑くんの腕にしがみ付く。
『ねっ、あんな女忘れて、あたしと楽しくやろうよ』
上目使いで佑くんを見つめる。
ついでに、また胸も押し付けた。
『……近藤さん』
『なぁに?』
『その脂肪の塊、押し付けるのやめてもらえますか?』
『……は?』
し、脂肪の塊……?
『何度も言ってますけど、僕が好きなのは夏夜さんだけです。他の人はいりません。それに僕は、公衆の面前で恥ずかし気もなく胸を押し付けて来る様な、はしたない女性は嫌いです』
『なっ!』
『皆さん、今日はありがとうございました。僕は夏夜さんを追いかけなければならないので、これで失礼します』
佑くんはあたしの腕からすり抜けて、一礼をし、松山 夏夜を追い掛けに行ってしまった。