太陽が愛を照らす(短編集)
見えない、でも、



 うっすらと生えた髭をなぞってみる。あったかい。確かに彼がここにいるんだと思った。

「え、ちょ、夏帆ちゃん、くすぐったい」

「触らせて」

「髭を?」

「まあ、どこでもいいんだけどさ」


 恋とは、愛とは、なぜ姿が見えないものなのだろう。
 姿が、形が見えていれば、不安になることなんてないのに……。


「どうしたの、急に」

「触りたかったの」

「おれも触っていい?」

「だめ。くすぐったいから」

「不公平だなあ」


 もうだいぶ日が高い。
 服を着だすのがなんだか面倒で、朝には目が覚めていたのに、だらだらとベッドのなか。


「そろそろごはん食べよ。おなかすいたよ」

「んー、だらだらしたい」

「まだ横になってて、わたし卵でも焼くから」

「おれのぶんもー」

「だれが一人ぶん作るって言ったよ、ちゃんと二人分作るよ」

「やった」


 ようやく抜け出したベッド。
 後ろのほうで、夏帆ちゃんがいたとこあったかい、とか言ってへらへら笑う彼の声が聞こえて、わたしもカーテンを開けて太陽をみたら、なんだかあったかい気分になった。

 見えない、でも確かにここに、愛はある。わたしたちが一緒にいるっていう事実が、それを証明してくれる。







(了)
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