太陽が愛を照らす(短編集)
「聡、変わったね」
少しでも視線をこちらに向けたくて、口を開く。
「そうか? お前は変わらんな」
「わたし、大人っぽくなったって評判なんだけど」
「まさか」
わたしの嘘っぽい笑い声とポコンが重なって、視線がまた画面の上を向く。
どうしたら、こちらを見てくれるのだろうか。誰よりも一緒にいたのに。誰よりも聡のことを知っていたはずなのに。わたしは、たかが新幹線で一時間ちょいの、たかが都会に、いま、まさに負けようとしていた。
「忙しいみたいだし、切ろうか?」
皮肉っぽく言ってみせる。自分でもびっくりするくらい嫌な口調だった。でも、夜更かし好きの聡は、切らない、と言うはずだ。今までだってそうだった。わたしがどんなに、眠いから切ろうよと言っても、まだいいじゃんを繰り返し、結局朝までコースを何度経験したことか。
わたしは今、聡と通話している。恋人同士ではなかったけれど、一緒にいる時間はなくなってしまったけれど、わたしたちは何も変わらない。これは勝率が限りなく高い、賭けだった。はずなのに。
「そうだな」
「え?」
「じゃあな」
聡は欠伸を噛み殺しながら言って、別れを惜しむことなく、画面は消えた。通話が終了しました。その表示を見つめながら、わたしはただただ、ぼう然としていた。
ちょっと離れただけなのに、こんなにも遠くなってしまった。
わたしはあの頃から何も変わっていない。皮肉も言うし、可愛くないし、しつこいし。聡が好きで好きで仕方ないのに、そんなの有り得ないって態度をとる。
変わっていくことが大人になることだというのなら、わたしは、大人になんてなりたくないと思った。
通話が終わっても、しばらく画面を見つめていた。
聡はずっとオンラインだったから、きっとチャットの相手と通話でも始めたのだろう。
(了)