太陽が愛を照らす(短編集)
二十代半ばのふたりがそんなことをした理由をうんうん唸りながら考えていると、「だから」と純平が切り出した。
「昨日のクリスマスイブ、俺と一真で和奏の部屋に押しかけようとしたんだ」
「サンタの恰好で?」
「プレゼント持って。げっほ……」
「‥なんで?」
「選んでもらうため」
「和奏に」
「俺か一真か」
純平は充血した目を細め、一真はにへらっと情けなく笑い、「さあ、どっち?」と声を揃えた。まるで最初から台詞が用意してあったかのように息ぴったり。言ったあと、やはりふたり同時に小さな包みを差し出したのだった。
ずずいっと、目の前まで伸びてきた二本の腕に、わたしはどうすることもできず、ただふたりのプレゼントを交互に見ていた。
純平と一真。今まで同じ店で働くスタッフとしてしか見てこなかったし、意識なんてしたことがなかったけれど、男として改めて見ると、それはそれは魅力的だと思った。
クールで背が高く力持ち。好きな作家や映画も同じで物知りで、一緒にいるとすごく楽だと感じる純平。
趣味は全く違うけれど、いつでも明るくて楽しませてくれて、嫌なことがあっても笑って励ましてくれる一真。
それぞれ良いところがたくさんある。そんなふたりにこんなことを言われ、わたしは一体どうしたら……。
立ち尽くすわたしと、プレゼントを差し出したまま動かないふたりに、声をかけたのは店長だった。
「とりあえず、夕礼始めていいかな?」
言われてふたりは少しだけ顔を上げ、困惑したように店長を見遣る。いや、困惑しているのは明らかに店長とわたしだ。
「もしかして、どっちも嫌?」と一真。
「いやっていうか……」
「嫌なんだろ?」と純平。
「いやじゃないけど、ふたりを一人の男として見たことがなかったから……」
それを聞いて純平は、ため息まじりでプレゼントを引っ込める。
「分かった、和奏」
「はい?」
「今日、仕事終わったら、空いてる?」
「空いてるけど……」
そして純平は、こんな提案をしたのだった。
「今晩また行くから、そんとき、また選んで」
「は、はい?」
「あ、いい、げっほ、イイネ!」
一真も笑顔で同調し、プレゼントを引っ込める。結局わたしは、何にせよどちらかを選ばなければならないらしい。それは決定事項らしい。
「今から退勤までの八時間、俺らのこと男として見ていて」
プレゼントは引っ込められたけれど、代わりに伸びてきた純平の手が、わたしの右手を握る。
「きっと、好きんなってもらえると思う! ごほっ」
左手は一真。
「好きだから、和奏が」
そして、告白された。
「ず、ずるい! おれだって和奏が好、げほっ、げほっ……」
一真からも。一体どうなっているんだ、今年のクリスマスは。
「じゃあ仕事するか」
右手が解放された。
「へっくしょん! ずずっ、店長、夕礼お願いしまーす!」
左手も。
勢い良く立ち上がったふたりは、プレゼントを各々ロッカーにしまい、すっかり仕事モードの表情になった。今の今までぐったりげっそり、風邪っぴきの表情だったのに。何がここまで彼らを駆り立てるのか……。
店長は苦笑しながら持っていた連絡ノートを開き、やっぱり困惑した顔で夕礼を始めた。
そして夕礼が終わると、ふたりとも「さあて、仕事だ」「まずは全力でトイレ掃除するぞー!」と休憩室を出て行った。
残されたのは、店長とわたしのふたりだけ。店長は苦笑したまま「ファイト」と言って、わたしの肩をぽんとたたいた。
本当に、どうなっているんだ、今年のクリスマスは……。とりあえず、これから八時間、ふたりを男として見ながら働かなければいけないらしい。ため息をついて、休憩室のドアノブに手をかけた。
なんだか、頬が熱かった。どうやら、ふたりに移されてしまったらしい。
風邪も、恋も……。
幼い頃絵本で見たサンタは、赤い服を着て白い髭をたくわえ、トナカイに乗ってやってきた。でも大人になった今、わたしの元にやって来たサンタは、真っ赤な顔でくしゃみと咳をしながらやってきた。
(了)