太陽が愛を照らす(短編集)
ふと顔を上げたら、わたしたちの前を、家族連れが歩いていた。
髪を可愛く結んだ女の子は、パパとママに手を引かれて楽しそう。見た感じ、パパとママはわたしたちと同じくらいだろうか。もしかしたらわたしたちより少し若いかもしれない。
そんな素敵な光景にきゅんとして、颯さんを見上げる。
「なんか素敵だね」
「うん」
「わたしたちもいつか、あんな風になれたらいいね」
「そうだな」
手を繋いだどきどきはいつしか幸せのどきどきに変わって、穏やかな気分で親子の後ろ姿を見つめた。
「そういやこの間、老夫婦を見たんだ。八十歳くらいの、白髪の老夫婦」
「うん」
「そのふたり、買い物袋を片手に持って、もう片方の手はしっかりお互いの手を握って。労わるようにゆっくり歩いてた」
「なんか素敵だね」
「ああ。俺たちもいつか、そんな風になれるといいな」
「そうだね」
まさか「今年は夏越せないかも」が口癖の颯さんが、そんなに先のことまで考えてくれていたなんて。じゃあ暑さに負けている場合じゃないね。考えたら、ふっと笑みがこぼれた。
そうしていたら颯さんは、すっきりした声でわたしの名を呼び、そしてこんなことを言う。
「そろそろ、おまえ、うちに来る?」
「……え? それって……」
「嫁に……」
「……行く」
唐突なプロポーズ。
思い返せば彼もいつも唐突だ。遊びに行くのも、うちに来るのも、勿論六年前の告白も唐突だった。一緒にいるうちに、実はあれこれ根回しするのが苦手な不器用な人だということが分かった。
そんな唐突で不器用な彼は、わたしが頷くとふっと笑って「オムライス食いたい」なんて言う。こんな唐突な話の切り替えは、照れ隠しだということを、わたしはもう知っている。
なんでもない日常も、そのなんでもない日常に現れる驚きも、この唐突で不器用な恋人も。
全部全部、大好きだ。
こんな幸せが、この先も――それこそおじいちゃんとおばあちゃんになるまで続けばいいな、と。そう心から思った、春の日。
春にしては強い太陽の光が、わたしたちを照らしていた。
(了)