太陽が愛を照らす(短編集)
気付いて、お願い、気付かないで
休憩室のデスクに顔を埋めて、店長が眠っていた。連日の残業で相当お疲れのようだ。まだ新婚だというのになかなか家に帰れないなんて。こんなところで仮眠をとる羽目になるなんて。
できれば起こしたくないが、仕事の用があって来たから起こさないわけにもいかない。早く仕事を終わらせて、店長を帰してあげなくては。
声をかけたら、寝ぼけているのか奥さんの名前を呼んでわたしの手を握った。
初めて触れた店長の手は温かかった。その温かさが心地良くて振りほどくことができない。
「きょうのおまえのて、つめたくてきもちいいな……」
少しの罪悪感と、少しの優越感。
ああ、どうか、この手がわたしだと気付いて。でももう少しだけ、奥さんじゃないと気付かないで……。
その温かな手を、ぎゅうと握った。
(了)