君は知っていた
始まりへ
やっと暖かくなってきたな。今年の冬は例年より長かった気がする。

そんな事を思いながらいつものように
見慣れた通学路を一人歩いていた。

高校三年生の三月。今日は卒業式である。

この学校に入学した当初、自分が卒業する時は果たしてどんな気持ちでこの道を歩くことになるのだろうか、なんて有りきたりな事を考えていたのを思い出した。

そしてまた有りきたりな事に出てきた言葉といえば『長いようで短かった』『色々な事があった』『無駄じゃなかった』なんて語彙力の低い感想ばかりだ。

しかし僕はこう思う。例え有りきたりで有り触れた様な三年間の高校生活だったとしても、自分にとってそれは何にも替え難いモノだと...

『凪ーーーー!!』

遠くから聞こえた僕の名前を呼ぶ叫び声に
一瞬にして現実に引き戻される。

『夏美か。』
『何回も呼んでるのに全く気づかないんだから...考え事でもしてたわけ??』
『ええ、お陰様で一気に戻ってきましたけどね。』
『似合わな!!そんな調子じゃあ今日は号泣コース確定ね。』
『はは...そうならないと良いな。』


ーーー荻原夏美。僕の幼なじみであり、所謂『彼女』というやつでもある。
顔立ちは可愛らしいのに、この雑把な性格のせいで恋愛とは無縁だったが晴れてこの度僕と交際をすることになったのだ。

思い返せば長くなる。が、ここに至るまでの軌跡をつらづらと語るのが今回のお話。
今日は卒業式か。全く、涙する暇なんてとてもじゃないがありそうにないな。

『コツン』と隣を歩く夏美の頭を軽く小突いて僕は走り出した。

『あ、こら!!待ちなさい!!』

そう、三年前と同じ様に...
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