ここで息をする


これから部活に向かうのであろう、スポーツバッグを抱えた運動部らしき人達。友達と駅前や街に繰り出して、放課後を謳歌しようとしているグループ。真っ直ぐ下校していく人や用事がある人。色んな目的を抱えているだろう人達が、ひっきりなしに行き交っていた。


「波瑠、ここ狭いから先に外に出てるね」

「うん。悪いけどちょっと待ってて」


下駄箱の前に居たクラスメート達と場所を譲り合っていたら、私だけ遅れを取っていた。

先に靴を履き替えた二人に返事をしながら、1年生の色として指定されている青色のラインが入った上履きシューズから焦げ茶色のローファーへと履き替える。その最中、何人かの人が背後を通り過ぎていった。

気を付けて動かないとうっかり衝突してしまいそうだ。

……と思ったにも関わらず。


「……っ!」

「うわっ」


二人を待たせるのは悪いと慌てて歩き始めた際に、別の下駄箱の列の影から出てきた人と出会い頭にぶつかってしまった。

自分よりも大きな人影はその衝撃ではびくともしなくて、私だけが驚いて言葉を失ったままふらりと揺れる。身体の重心がずれてバランスを崩してしまい、ひやりと汗が浮かんだ。

だけど私が体勢を直すより早く、ぶつかった相手が私の腕を引いて支えてくれて、私はこけることもなくその場に留まることが出来た。


「っ、大丈夫か!?」


はっきりと響くような声が慌てた様子で発せられる。

こけそうになった恐怖と、でも実際は支えられて助かったことへの驚きと安堵で固まったままの私は、すぐにそれに返事が出来なかった。


「……おい、大丈夫か?」


そんな私の様子を見兼ねてか、再度投げかけられた安否を問う声。今度ははっと我に返り導かれるように顔を上げると、すぐ近くに整った顔があって一瞬呼吸が止まるかと思った。


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