ここで息をする
「たぶん今ので大丈夫だと思う。でも急いで確認するからちょっと待っててくれ」
高坂先輩は手にしていたハンディビデオカメラを軽く動かしながら言うと、反対側のプールサイドから撮っていた如月先輩のもとへさっそく向かった。如月先輩のそばには、すでにノートパソコンを持って映像確認の準備を進めている佐原先輩の姿も見える。
撮影序盤の頃は、撮影に使っているカメラは如月先輩がメインで使用している業務用のものだけだった。
如月先輩と高坂先輩が交代しながら、そのカメラで同じシーンを何回か繰り返し撮影して別のアングルの映像を作っていたんだ。クランクインした日の坂道での撮影がまさにそれ。
だけどアングル数が増えるごとに何回も撮り直したりカットチェンジするのは大変だから、最近では高坂先輩がサブとしてもう一台ビデオカメラを駆使しながら撮影しているというわけだ。
いつしか田中さんも、レフ板を持ったまま三人のところに集まっていた。カメラマン二人がそれぞれ撮った映像を、映画研究部四人が揃って真剣かつ生き生きとした表情で確認している。
観ているのは映画の中のほんの一部のシーンだけど、その世界にのめり込むような熱心な姿は本当に楽しげだった。
好きなことに夢中な姿。一生懸命向き合う熱い思い。まだ純粋に水泳を好きでいられた頃の自分に重なるようで、以前はそれらを見るのが時々憚られた。
何もかも手放してしまった私には、眩しくて仕方なくて。かつての好きな世界が息苦しさで埋もれてしまった私には、どうしてもその真っ直ぐさを受け入れられなかった。
だけど撮影という名目で再びこの水の世界に戻り、泳ぐ時間が徐々に積み重なっていく中で、次第にその真っ直ぐさに向き合えるようになったと思う。