ここで息をする
「確かにこうしてると涼しいかもな」
航平くんも同じように水中に膝下を入れて心地良さそうに笑う。それから手にしていた二本のペットボトルの片方を差し出してきた。
「どうぞ」
「えっ、くれるの?」
「いっぱい台詞言ったし、喉渇いたと思って外の自販機で波瑠の分も買ってきたんだ。さっき休憩してるときにペットボトル空にしてるところ見かけたから、もう飲み物持ってないかもって思って。スポドリでよかった?」
「ありがとう、助かるよ。貰うね。実はあとで買いに行こうって思ってたんだ」
ありがたく受け取ったスポーツ飲料水を、プールにこぼしてしまわないようにプールサイドの方を向いてさっそく飲んだ。
今日は大して泳いでいないから特に疲れてはいないけど、炎天下の中で繰り返し集中しながら台詞を言っていたから身体は自然と水分を欲していた。甘く冷たい液体に生き返った気分になる。
「あ、沙夜ちゃん」
気付いたのはちょうど、ペットボトルをプールサイドに置いてもとの向きに戻ったときだった。さっきまで撮っていたときにプール内でエキストラをしていた沙夜ちゃんが、プール内を歩いてこちらに向かってくる姿を見つける。
私の声が聞こえたらしい沙夜ちゃんと視線がかち合った。そして、今日みたいな真夏の太陽を彷彿させる明るく輝いた笑みを向けられた。何だかご機嫌だ。
「波瑠ちゃんお疲れさま! ……あっ、航平もね!」
「俺はおまけかよ!」
すかさず突っ込んだ航平くんとその返しにからからと笑う沙夜ちゃんのやりとりはとても楽しげで、私もつられて笑ってしまった。
「ははっ、沙夜ちゃんもお疲れさま。部活で練習したあとだけど疲れてない?」
「全然! プールの中で適当に泳いでただけだし、大したことは何もしてないから大丈夫だよ」
沙夜ちゃんはプールから上がって、航平くんの隣に腰かけた。