ここで息をする


「ていうか、さっきの二人の演技すごかったよー! 会話も表情も上手くて、観てたらどんどん引き寄せられてぐっとくるものがあった!」


少し身を乗り出した沙夜ちゃんは私と航平くんの顔を見ると、興奮した様子で感想を伝えてくれた。目を輝かせながら告げられた言葉には熱がこもっているのが分かる。聞いている私の胸まで熱くなるような感想だった。

私と航平くんは揃ってはにかみながなら「ありがとう」と嬉しい気持ちを返す。

沙夜ちゃんは度々水泳部員の役で撮影に参加してくれていて、私達が今よりもっとぎこちない演技ばかりしていたところも見ている。そんな彼女がくれる言葉は嘘など感じられない素直なもので、観てくれる人の心に何かを残せているならよかったと思えた。

撮影も進んできて“ハル”の気持ちも動き始めている大事なシーンの一つなだけに、余計にそう演じられていることを褒めてもらえて嬉しい。

私も“ハル”と一緒に、少しは進歩出来ているのかな。そうでありたいと思った。


「俺も二人の演技、すげーよかったと思う。シーンもさっきのでオッケーだ。お疲れ」


いつの間にかこっちのプールサイドに戻ってきたらしい高坂先輩の言葉が頭上から降ってくるのと同時に、スイミングキャップを被ったままの頭の上で手のひらがあやすように優しく跳ねた。

振り返って見上げると、先輩は柔らかく目を細めながら白い歯を見せてにっと笑っていた。本当に楽しそうで嬉々としたその顔は、いつも撮影したシーンや演技の合格を意味するサインだった。

撮影していく中でいつしかこの笑顔を見ることが楽しみになっていたから、目にした瞬間じわりと胸が熱くなって喜びが溢れ出す。

観客目線の沙夜ちゃんからの褒め言葉ももちろん嬉しかったけど、好きなことに全力投球な先輩が作り出す世界の一部になれたような気がするから、先輩からの言葉も嬉しかった。


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