ここで息をする
ありがとうございます、と紡ぐ口元に自然と笑みが浮かんでいた。伝染したみたいに高坂先輩の口角もわずかに上がっている。
「この調子で次も頑張れよ。でも今日はさっきのシーンで終わりだから、おまえらプールから上がっていいぞ。他の人達にももう終わりの挨拶は済ませてあるから」
先輩の言葉につられてプールを見ると、水泳部員のエキストラも映研部のみんなも着々と片付けを始めていた。どうやら終わりを知らされたのは、私達が最後だったらしい。
プールサイドに座っていた私も着替えに行くために立ち上がり、航平くんと沙夜ちゃんも揃って更衣室へと向かう。同じ方向に歩き出した高坂先輩が航平くんの隣に並び、私と沙夜ちゃんも並んであとに続いた。
「次にプールで撮影するのって、お盆が明けてからだっけ?」
沙夜ちゃんが撮影スケジュールの記憶を辿るように言った。私は頭の中で必要な情報を探り当ててると、沙夜ちゃんの問いかけに一呼吸置いてから頷いた。
「……そうだね。確か……大会が終わってからのはずだから」
水泳部は6日後に大会を控えている。そのことを踏まえて、明日からしばらくプールでの撮影は休止期間に入る予定だ。
試合直前というのは練習中の雰囲気もより大事だし、部員達の士気も上がってくる。
事前に許可を貰っているからこれまでに何度か水泳部の練習中に混ざって撮影させてもらっていたけど、さすがにそんな大会直前の貴重な練習時間に水を差すわけにはいかないということで、映画研究部としてはプールの使用を自粛する前提でスケジュールを立てていたらしい。
仮に今日みたいに水泳部の活動後にプールを借りて撮影するにしても、航平くんや他の部員達が撮影に参加しなければいけないのは、やっぱりどうしても彼らの負担になってしまう。