ここで息をする
試合を目指して頑張っている水泳部の人達の邪魔になることは、映画研究部のみんなが望んでいないんだ。もちろん、私も。
「そっか……。じゃあしばらく、こうやって波瑠ちゃんと会うこともないんだね。当分会えないのは寂しいなぁ」
私の返答を聞いた沙夜ちゃんがぽつりと寂しげにこぼす。何気なく出たであろう言葉には沙夜ちゃんの本音が表れているように感じて、後ろめたさが胸を刺した。
……困ったな。こういうことを言われてしまうと、どう反応するのが正解なのかと悩んでしまう。
きっと水泳をやめる前の私なら、返す言葉は決まっていたのだろうけど。
「……そう、だね」
今の私には、曖昧に頷くのが精一杯だった。
映画の撮影が始まってから、キャストである航平くんとエキストラをやってくれている沙夜ちゃんに会う機会は増えている。その分だけ、こうやって曖昧な表情と言葉で誤魔化す回数が増えたように思う。
最初は、この1年間極力避けてきた二人と頻繁に会う時間が増えてしまい戸惑っていた。
だけどそれは私だけだったみたいで。二人は私と会えることを喜んでいるらしい。今までなら会うたびに気まずそうにしていた航平くんも最初の打ち合わせの日から以前のようによく話してくれるし、沙夜ちゃんも私と会えることを日々嬉しそうにしてくれている。
だから自然と私も二人の態度に合わせるように接してきたけれど、どうしても時々、取り繕うようにその場を凌いでしまうんだ。
きっと二人は、私との繋がりが元に戻ったように感じられて喜んでいるのだろう。
……だけど私は、完全に戻れたと思っていなかった。ずっと中途半端な態度を取ってきた私が二人と一緒に居ていいとも思えなくて、どうしてもぎこちなく接してしまう瞬間がある。