ここで息をする
目の前の人物は私よりも15センチは高いと思われる背丈で、栗色の髪にきめ細かい肌の健康的な色がよく似合う男子生徒だった。
彼は窺うように私の顔を覗き込んでいる。その距離は無意識なのだろうけど近くて、そばで見る整った顔にこっちが勝手に戸惑ってしまった。
太すぎるわけでも細すぎるわけでもない、緩やかな山なりの眉。眉間からすっと伸びた鼻筋。血色のよい薄い唇。
そして二重の切れ長な瞼の下のダークブラウンの瞳が、何も答えない私を不安げに見つめている。
それに応えようと慌ててぺこりと頭を下げながら、近付いていた身体をそっと引いた。そのタイミングで、彼も掴んでいた私の腕を放す。触れていた力強くて熱い手のひらが離れていった。
「だっ、大丈夫です。……あの、助けていただいてありがとうございました。それと、ぶつかってしまってすみません」
「そうか、大丈夫ならよかった。それにこっちこそぶつかって悪かった。ごめん」
ばつが悪そうに首に手を当てる彼。ちらりと視界に入ってきた上履きシューズのラインの色は、3年生の色として指定されている緑色だった。
咄嗟に敬語で話していたけど、ちょうどよかった。直接的な関わりがなくても相手は先輩だったから。
「つうか、おまえ……」
「はい?」
お互い謝罪をして終わり……のはずなのだけど。
ふと目の前の彼がはっとしたように小さく呟いて、じっと私を見つめ始めた。いきなりの謎な行動に戸惑うけれど、何だか動くに動けなくなってしまった。
茶色く煌めく綺麗な真ん丸な瞳に捕まってしまったように、彼から目を逸らせない。
一直線に私に向けられて、一切ぶれようとはしない視線。
思案しているような顔だった。何かを言おうとしていて、その言葉をどう伝えようかと迷っているみたいな。