ここで息をする
今日もまた、同じ。
会うたびに中身がないような薄っぺらい言葉の応酬には、いつも気まずさと申し訳なさ、それから寂しさまで感じてしまって嫌になる。
でも出来るだけその鬱々としたものは見せないようにしていた。だって優しい航平くんは、どうしても気を遣うだろうから。関わらないようにしているのは私の勝手な都合なんだから、航平くんが気に病む必要なんてないんだ。
だから航平くんが何も気にせずにいられるように、避けていても仕方なく会ってしまったときだけは、今みたいに普通を心がけて自ら話すようにしている。
……だけど、偽りの普通を演じる私の心は、いつでも溺れているみたいに苦しい。好きだったものをすべて自ら手放した弱さが、追い討ちかけるように今の私を責めているみたいだった。
そして今もまだ弱虫な私は、また逃げるように言葉を紡ぐ。
「……あ、私もう行くね。友達が待ってるから」
どうせ大していつも、長くは続かない会話。話すこともないのだからさっさと終わらせてしまった方が楽だ。
きっと航平くんだって、同じように思っているはず。だって航平くんからすれば、自分を避けているやつとなんて望んで一緒に居たくないだろうから。
「……波瑠っ!」
でも立ち去ろうと背を向けた瞬間、焦ったみたいに上擦っている声で呼び止められてしまい、驚きのあまりびくりと身体が震えた。
そろそろと振り返って航平くんを見上げれば、一重の目を細めて悲しげに笑っている。
「……俺、今でも待ってるから」
「……」
「波瑠とまた一緒に泳げるって、そういうときがまた来るって、信じてるよ。だから俺も……沙夜(さよ)も、波瑠を待ってるからな」
哀愁を帯びた黒い瞳が、訴えるように私を射抜く。真っ直ぐぶつかってくるその心意気が無性に切なくて、胸が痛むのを懸命に堪えた。