ここで息をする
二人は部活で忙しいからなかなか一緒に過ごすことはないけれど、それでもこうやってたまに一緒に居られる日は楽しくて好きだった。
高校生活が始まって2ヶ月。
勉強は今のところ、特に困っていない。一緒に居て楽しいと思う友達もいる。
部活にこそ入っていないけど……今のこの生活は不自由でもなくて嫌いじゃないし、楽しいと思っていた。
……だけど、どうしてだろう。時々、物足りなさを感じてしまうんだ。
ふと我に返るように、気付いてしまう。心の中にぽっかりと穴が開いていて、欠けているものがあることに。
そういうときは決まっていつも、些細なきっかけであの水の世界が恋しくなったりした。
水泳の話をしたとき、プールを目にしたとき。求めるように、探してしまう。欠けた心の隙間に、まるでそれを取り戻そうとしているみたいに。
そんな自分の現状を思うと、虚しさのあまり息苦しさを感じるんだ。吸った空気を上手く取り込めていないみたいに、苦しさで胸が詰まる。
息苦しいあの場所から逃げたというのに、今居る場所でさえも息苦しくなるなんて……どうしてなんだろう。
息が詰まる八方塞がりな状況に頭が痛くなる。
辿り着いたロータリーにはスクールバスが停まっていた。その車体には、市内にあるスイミングスクールの名前が載っている。
ちょうど、スイミングバッグを持った小中学生らしき子達が次々とそこに乗り込んでいくところだった。今からあの水の世界に向かうその姿に、数年前の自分が重なって見える。
だけど足早にその横を通り過ぎることで、懸命に幻影を追い払った。気を紛らせるように、街の向こうに沈む夕日の光を見つめる。
また、今の自分にないものを求めている。そんな自分から目を逸らすために。
息苦しさに支配されてばかりだ。
――私は結局、どこでなら安心して息が出来るのだろう。