ここで息をする
「クラスとか友人関係で、嫌なことや気になることはないか?」
「ないです。クラスの雰囲気もいいし、友達もみんないい子で楽しいから」
「そうか。3組、俺が言うのもなんだけど、いいクラスだからな。嶋田もそう感じてくれてるなら嬉しいよ。平松(ひらまつ)と遠藤(えんどう)とも仲良くやってるみたいだし、大丈夫そうだな」
尋ねてきたわりに本当は全部把握しているみたいな口振りだったから、ちょっと拍子抜けしてしまう。
迷うことも間違えることもなく私が仲良くしている友達二人の名前が出てきて、余計に私を驚かせた。
……先生って、案外ちゃんと見てるんだなぁ。
いくら自分が受け持っているクラスの生徒とはいえ、誰が誰と仲良くしているとか、そこまではっきり見ていないと思っていた。
でも違う。ちゃんと見ている。
その事実を知ると、やっぱりこの人は目に見えないはずの心の中まで見ているのではないか、出来なくてもそうしようとしているんじゃないかって、そう思えてくる。
だから無性に、不安に駆られた。
生徒と分かり合おうとする姿勢は、先生としてはいいことなのかもしれない。
でも私は、あまり深く入り込んでほしくない。自分でも見ないようにしている自分の気持ちを、刺激してほしくなかった。
下げたままの視界の中には、プリーツスカートが映り込んでいる。いくつかの淡い青系の色と白色で彩られているチェック模様の上には硬く閉じられた拳があり、そっとそれを開いた。
痛みにも気付かずに力を入れすぎた手のひらには、爪痕が深く刻まれている。じわりと滲んでいる汗を、夏服に変わったばかりの薄い布地のスカートで拭った。