ここで息をする
「勉強の方も大丈夫みたいだな。中間考査、なかなかいい結果だったぞ」
置き去りにされていた薄っぺらい白い紙の存在が、突如思い出されたように先生の太い指先で私の前に滑らされる。
1年3組23席、嶋田波瑠(はる)。
横長の用紙の右上にそう印字されているそれは紛れもなく私のもので、中間考査の点数とその平均点の結果による順位が表記されていた。
点数自体はテスト返却ですでに知っていたし、先に平均点も計算していたから、自分のテストの出来映えはすでに把握済み。でも順位は初めて知ったから、客観的にまた自分の成績を見ることになった。
なかなかいいというよりは、まあまあだろう。クラスでは真ん中、学年では中のちょい上。
特別いいわけでも、極端に悪いわけでもない。中学のときの成績ともあまり変わらない。何か、私としては普通。
「自分で見てみて順位はどうだ?」
「……普通です」
「ははっ、また普通か。嶋田の普通はいいものばかりだな」
……そうかな。
自分ではそういうふうに思っていないから“普通”に分類しているのに、何もかもいいと言われてしまうと戸惑ってしまう。
いいものばかりというのが本当なら、今のこの“普通”の生活は、以前のようにもっと――。
唐突に苦い感情が流れ込んできて思わず俯いた私に、先生はこの調子で頑張れ、と笑っていた。
それでてっきりこの面談は終わるものだと思って、私は気を取り直すと明るい声ではいと返事をした。だけど私が成績表を机から手に取るのと同時に、先生はまだだと言わんばかりに再び口を開く。
「そういえば嶋田って、部活には入ってないんだったな」
含みを持たせたような声だった。
問いかけというよりは、わざとその事実を私の口から告げさせて確認しようとしているような。……考えすぎだろうか。