ここで息をする
「……入って、ないです」
成績表を掴んだ手の力が抜けた。一度手にしたはずのそれは、湿気た木目の机の上に再度横たわる。
早く先生との話を終わらせたいと、心が叫んでいるのを感じた。危険を予知したみたいに、心臓が嫌に速く動いている。
でもその得体の知れない不安の塊を回避するための術を頭が上手く思いついてくれなくて、ただ、先生の次の言葉に身構えるしかない。
「入らなかったのは、興味がある部活がなかったからか?」
「……この学校、部活は強制参加じゃないから。だから別にいいかなと思って、入らなかったんです」
するりと口から飛び出してきたのは、質問に答えているようで答えていないような曖昧なものだった。先生の問いへの答えをはぐらかし、まるでわざと部活に入らなかったことに言い訳しているみたい。
先生もそう感じたのか、一瞬眉をひそめた。それからじっと、私の瞳を見つめる。その奥の、本心を見抜くように。
……ああ、面倒なことに掴まってしまったな。
嘘でも誤魔化しでもいいから素直に頷いておけばよかったと、今更ながらに後悔した。
さっさと話を終わらせたかったはずなのに、自分の余計な発言のせいでさらにそれが困難になってしまったことを先生の顔を見て感じた。
「確かに、部活は強制ではないな。でも入らなければ出来ない体験っていうものもあるからな。もしバイトとか塾とか、それ以外でも放課後に何の用事もないんだとしたら、何かしらやってみるっていうのもいい経験になると思うぞ。部活以外で何かやったりしてるのか?」
話題が予知通りの嫌な流れに動いていくのを感じて、自然と唇を固く結ぶ。
一瞬躊躇して、それから力なく首を横に振った。