ここで息をする


それに答えることはせずに、ぼんやりと先輩を見つめる。

ゆっくり瞬きをして訪れた一瞬の暗闇。そこにちかちかと輝いて見えたのは……もちろん、水色のあの世界だった。


「俺はあるよ。そのためならたとえ無理だって頭の中で分かりきってることでも、何だってやってやろうって思う。いつかその無理なことだって、続けてるうちに出来るようになるかもしれねえから」


先輩が言う好きなものとは、きっと映画なのだろう。最初にヒロイン役を頼まれたときにも感じたことを真面目な顔で話す先輩から再度感じて、余計にそう思えた。

生き生きとした表情で話す先輩からは熱い思いを感じて、私にはそれが眩しく見えた。


「……まあ、俺だって無理だと思って逃げたことだって今までの経験の中であるし、人に偉そうに言えないけどな。それでも今は……好きなことに真剣に向き合いたいって思ってるから、俺だってそう簡単に引き下がれねーんだよ。おまえに無理だって言われても、俺は諦めたくない」

「そんなの、自分勝手じゃないですか……」

「ああ、そうだよ。わがままだし、正直だいぶ無理強いしてることも分かってる。でも好きなことをやるって、そういうもんだろ。好きだからこそ真剣だし、意地にもなる」


どうすればそう開き直れるのだろう……。

さも当たり前のように言い切った先輩に気圧されて、私はまたもやすぐに言い返せなくなってしまう。

身勝手さも認めながら自分の意思を貫き通そうとする姿は、ふてぶてしいあまりに清々しくさえあった。


何か……すごいなこの人。自分の気持ちに正直に生きてるって、痛いぐらいに伝わってくる。

強引にわがままを突き通そうとするなんて巻き込まれる人は迷惑でしかないのに、それをやってみようと試みる。その無駄に真っ直ぐすぎる姿勢に、私はふっと笑みをこぼした。


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