ここで息をする
「いえ、特には……」
「だったら部活、始めてみないか? せっかくの高校生活だ。今のうちに出来ることをやるのもいいもんだぞ。まだ新学期が始まって2ヶ月だし、今から入るのも遅くないと思う」
まあ、強制ではないけどな。
苦笑とともにそんな言葉を付け足すと、先生は乗り出していた身体を椅子の背もたれに預ける。重みを受け止めた椅子がギッと悲鳴を上げていた。
あくまでも無理強いはしないと言いたいのだろうけど、先生の言葉には熱がこもっているのを感じる。
どう考えても先生は、私に部活動に参加することを勧めていた。その証拠に先生の口はなかなかこの話を終わらせようとしない。
「いざ始めてみると、興味がなかったことにもはまったりするもんだよ。チャレンジしてみて好きだと思えるものに出会えたら最高だな。夢中になるぐらい好きなものを見つけられたら、それだけで毎日が楽しくなるぞ」
三浦先生は、好きなことや夢中になることがある楽しさを一人語り出す。
きっと自分の好きなことを思い浮かべているであろうその輝かしい笑顔を、私はどこか懐かしさによく似た気持ちで見ていた。楽しそうな先生に、以前の自分の姿が重なるような気がして。
……好きなこと、か。
以前は私にも、確かにあった。
だからそれに夢中になることも、好きな世界で過ごす時間が何よりも楽しくて心が踊ることも、先生に熱く語られなくても知っている。
何よりも、大切で。何よりも、自分が輝く瞬間。
好きな世界は私の味方で、私にとって何よりも居心地のいい場所だった。好きなことを好きなだけやるその満足感が毎日を充実させてくれて、本当に楽しかった。