ここで息をする
……でもそんな時間はもう、私には存在しない。
好きなことに取り組む。自分で望んだそれがプラスな面ばかりではなくマイナスな面さえも持ち合わせている現実を、私は痛いほどに知ってしまった。
その瞬間、好きな世界が息苦しい場所になってしまったから、私は――。
「嶋田、中学のときは部活やってたのか?」
意識がゆらゆらと過去に引き付けられる中で、先生のその一声が鮮明に耳に届いた。
おかげで意識が先生に向き、ふと現在に連れ戻される。一人喋りをしていたはずの先生がいつしか私の答えを待っていた。
外は相変わらずの雨模様で、地上を叩いて濡らす音が耳鳴りのようにそばを離れてくれない。
「……やってました」
「へえ、何部?」
純粋に気になることを聞いているといった具合の先生と目が合う。でも不自然にならない程度の素早さで、真っ直ぐな瞳から逃げた。
「……水泳部」
たっぷり5秒ほど間を開けてから短くそう答えた。自然と声が小さくなってしまう。
いっそ雨音に掻き消されて先生に聞こえていなかったらいいのに。そう願うものの、虚しいことに私の心情とは裏腹に先生の瞳が輝き始めた。
「おお、水泳部か。嶋田、水泳経験者だったんだな。あっ、ちなみに俺、水泳部の顧問やってるんだよ」
……知ってる。
だから、あまりこのことは話したくなかった。水泳の話になれば、きっと顧問をしている先生は食いついてくると思ったから。
中学時代のことなんて、もう過去のこと。今更掘り出してほしくないのに。
私が手放したものの話なんて……。
自分と関わりのある水泳の話題になったことで、先生はますます乗り気で私に聞いてきた。