ここで息をする
「……うん、いいな。これでいこう」
USBケーブルでビデオカメラと繋いだノートパソコンの画面を覗き、四角い世界で繰り広げられる“ハル”と“コウ”のやりとりを真剣な顔で吟味していた高坂先輩が、やがて口角を上げて私達にそう言った。
合格を意味する言葉を聞けたのは、撮影して映像を確認するという作業を5回繰り返してやっとのことだった。
「よかった、やっとオッケーになった……」
さっき撮ったばかりの映像を再度流している高坂先輩の背後で、私はようやく胸を撫で下ろすことが出来た。このシーンをテイク5まで撮り直すことになった理由が全部自分のミスだっただけに、無事に一つのシーンが完成したことにとても安堵した。
それでも、心は完全には喜べない。特に序盤、緊張で何度も同じ台詞を噛んでしまった申し訳なさから、苦いものがじわりと私を蝕んでいた。
「すみませんでした。何回も台詞を間違って、撮り直してもらうことになって……」
みんなの足を引っ張ってしまった自分の不甲斐なさに意気消沈しながら、反省の思いで謝る。
すると項垂れた私の頭を、高坂先輩がぐいっと強引に上へと向けてきた。その容赦ない力加減に一瞬文句が飛び出しそうになるけど、無理矢理動かされた視界の真ん中に先輩の優しい表情が映り込んできて、言葉が喉の奥で詰まってしまった。
まるで、私の中で燻っている弱虫な一面を見透かしているみたいで。だけどそれを責めるわけでもなく、受け止めてくれているような柔らかな顔つきに思えて……。
「いいんだよ、撮り直すぐらい。ミスなんて誰だってするもんだしな。これからキャスト以外のミスで撮り直すことだって普通にあるだろうし、そんなの協力してカバーし合うんだからお互い様だ。だから、いちいち気にして謝る必要なんてねーよ」
それに、と先輩は付け加えて笑った。