ここで息をする






ようやく個人面談から解放されて、昇降口に向かうために校舎内を歩いていた。

その足取りは心境に比例するように重くて、自分のものではないような変な違和感を纏っている。


放課後に入って1時間ほど経っているから、人気はほとんどない。各クラスで個人面談を受けている人達が出入りしているぐらいで、教室が集結している東校舎は比較的静かだ。

北校舎にある音楽室から漏れているのだろう。吹奏楽部が練習している音が雨の音と混ざって悲しげに響いている。


東校舎と昇降口がある本館を結ぶ、4階の渡り廊下。その両側には、大きな窓ガラスが一面に張られている。

風に運ばれた雨粒が庇を越えてポツポツと窓ガラスにぶつかっていて、悪天候のせいか辺りには暗い雰囲気が漂っていた。

ただでさえ暗かった自分の気持ちに拍車をかけられそうだ。


さっさとこの空間を抜け出そう。そう思うものの、やっぱり足が重くて思うように前に進めない。

その原因はどう考えても、さっきから私の思考を支配している個人面談の余韻だった。


――「もし気が向いたら、いつでも水泳部に入部していいからな。俺は顧問として、大いに歓迎するから」


水泳をやめたとはっきりと言った私に、先生はそれ以上詳しく何かを聞こうとはしてこなかった。でも残念そうな表情で最後にこんな言葉を残して、話を締め括ったんだ。


……あるのかな。気が向くことなんて。

自ら手放したあれに、もう好きだなんて言えないあの世界に、もう一度戻りたいと思う日なんて来るのだろうか。

本当に……来るのだろうか。息苦しさを感じずに、再び泳げる瞬間なんて。


いつしか完全に足が止まっていた私は、徐に窓の向こうに視線を定める。

教室から見えるグラウンドが、ここからは斜めの角度で見えていた。雨に占領されて水溜まりがいくつも出来ているそこには誰一人居ない。


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