ここで息をする
そうなんだ、航平くんも……。
自分のことで精一杯だったから、航平くんが自己申告するまでミスしていたことさえ気付いていなかった。撮り直しているときにもミスを引きずっているような気配さえ感じなかったし、私と違ってきちんと気持ちを切り替えていたのだろう。
自然とそれが出来るのが航平くんの強みなんだと思う。そういうところは素直に尊敬するし、羨ましくもなる。
「間違っても一応台詞は言い切れたから誤魔化せたと思ってたけど、さすがに瑛介にはお見通しだったよな。ごめんな、迷惑かけてたのは俺も一緒だ」
「いや、大丈夫だ。波瑠もだけど、航平のミスもどうってことない」
さっきは航平くんのミスをからかうように指摘した先輩も、今は大して気にしている素振りではなかった。
たぶん、こっちが本心なのだろう。口振りで、さっきのは場の空気を和ませるためだったのが伝わってくるから。
それぞれの励ましが私の中に前向きなエネルギーを補充してくれるようで、自ずと握った拳に力が入った。
「……わ、私! 次からはもっと、上手く出来るように頑張ります! みんなが言ってくれることは嬉しいけど、やっぱり少しでもミスをなくしたい気持ちはあるから……。まだ演技には慣れないし下手かもしれないけど、私もこの映画が素敵なものになるように頑張りたいです!」
そう出来るようになりたい。そんな願望も込めて胸に湧いた決意をありのままに表明すると、みんなは口々に「一緒に頑張ろう」と声をかけてくれた。
私の向上していく気持ちを読み取ったように、高坂先輩は満足気に笑っている。
「やる気があるやつは大歓迎だ。だけどな、たとえ上手く出来なくても何回もやればいいだけし、そんなに一人で気負わなくてもいいんだからな。それだけは忘れんなよ?」
「はい!」
念を押す先輩に、力強く頷いて答えた。