ここで息をする


「気楽に、自由に、一緒にいい映画作ろうぜ」


高坂先輩は頬を緩めて言うと、私が頭に被ったままだった小道具のタオルでわしゃわしゃと髪をかき混ぜてきた。それが何だかくすぐったくて、逃げるように俯いてしまう。


「風邪引くから、ちゃんと拭いとけよ」


もうほとんど髪は乾いているというのに、高坂先輩はそんな世話焼きな言葉を残す。

そして「片付けするぞー」と切り替えるように声を張り上げると、みんなを引っ張る監督として率先して機材の片付けを始めた。みんな、その彼の背中に続いて動き出す。

……何か先輩って、憎めない人だなぁ。

高坂先輩に乱された髪を手櫛で整えながら、静かに頬を緩めた。

強引な一面もあるのに、人のことをよく見て気持ちを汲み取ってくれたりもする。戸惑わされることもあるのに、助けてくれたりもする。決して、ただの勝手なことばかりする人ではないんだ。

視線の先の高坂先輩は、部員のみんなや友達の航平くんに囲まれながらわいわい会話を弾ませていて、彼が慕われていることがよく分かる。

――人を引き付ける理由が、分かるような気がした。

そして彼とならきっと素敵な映画の世界を作り出せるだろうと、今日の撮影を通じて自然と確信出来た。私もその一員に選んでもらえたことが、今なら嬉しく感じる。


「おーい、波瑠! サボってないでおまえも荷物運ぶの手伝え!」


高坂先輩が、突っ立っていた私を呼ぶ。


「サボってませんよ! 今行こうとしてたんです!」


ざっくりと髪を纏めて手首に通していたヘアゴムで結ぶと、みんなのもとへと駆け寄った。


――きっと私も、引き付けられた。

そんな彼の見えない力で出会った世界に、また一歩踏み出すように。



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