ここで息をする
「じゃあ、俺は今から如月達と風景シーン撮ってくるから。しっかり休んどけよ」
「……あっ! 私も、何か手伝います!」
演技で足を引っ張っている分、何かもっと自分に出来ることをやりたい。手伝えることがあるのなら少しでも力になりたい。
そんな逸る思いでどこかへ向かおうとする高坂先輩に慌ててついていこうとしたけど、追いかけた背中がくるりと反転して制止を食らった。
「いいよ。そんな人数いらないし。つうか、波瑠は自分の役を頑張ってくれたらそれでいいから」
私にやんわりと告げた先輩の表情を窺う。合わさった視線の先の瞳は、柔らかく細められていた。まるで、無力な自分に焦っている私に大丈夫だと伝えるみたいに。
……ああ、本当にこの人は、人の気持ちを見透かしているみたいだ。
「……分かり、ました」
あっけなく私の心を覗いてくる先輩の瞳から逃げるように、伏し目がちになりながら大人しく頷く。そんな私に先輩は「次のシーンの台詞、おさらいしとけよ」と明るく声をかけると、そのままプールサイドに沿って歩いていった。
その背中をしばらく見つめてから、冷静になろうと深呼吸をする。
今やるべきことをやればいい。先輩はさっき、そういう意味で言ったのだろう。
今私が頑張らないといけないこと、やるべきことは、自分に与えられた役を全うすること。それさえままならない状況で人を手伝うべきではないと、先輩は断ることで私に伝えてきたんだ。
気持ちだけ先走ってあれこれ一気にやろうとするよりも、一つのことに集中した方がいいってことなのかもしれない。
「……そうだよね」
いくら前向きに頑張ろうって決めても、一番大事な目標を見失っていたら何も意味がない。
私は“ハル”なのだから、もっと“ハル”として泳ぎも演技も出来るようにならなくちゃ……。