ここで息をする
分かっていたつもりで分かっていなかった自分がやるべきことを頭に叩き込みながら、気合いを入れ直すために両頬を挟むように叩く。それからようやく、休憩するために場所を移動した。
「嶋田さん、お疲れさま! これ、タオルと飲み物ね」
「あっ、田中さん! わざわざありがとう」
「今ちょうどレジャーシート引いてあるところが日陰になってるから、座ってゆっくり休んでね!」
「うん、ありがとー。疲れてたから嬉しい」
撮影前の準備でプールサイドの一角に設けた、映研部の荷物置き場兼休憩場所に向かうと、ちょうどそこに居た田中さんがバスタオルとスポーツドリンクのペットボトルを差し出して迎えてくれた。ありがたくそれらを受け取る。
そしてスイミングキャップを外して髪を拭き、身体についた水滴を念入りに拭いて、ブルーの大きなレジャーシートの荷物が置かれていない端のスペースに座った。田中さんも、私の隣に腰を下ろす。
「田中さんも休憩?」
「うん、ちょうどさっき佐原先輩とレフ板係を交代したから」
「そういえばさっきまで、私の撮影についてくれてたもんね。お疲れさま」
「いやいや、ずっと泳いでた嶋田さんの方がお疲れさまだよー」
お互い労いの言葉をかけると、どちらからともなく小さく息を吐くように笑った。
生温い風がプールの上を滑るように吹いて波を立たせる。素肌を撫でる風から身を守るように、背中から身体を覆うようにかけていたタオルを手繰り寄せた。
スポーツドリンクをゆっくり口内に含んで飲むと、冷たい液体が胃の中を落ちていくのがはっきりと感じられた。
視界の大半を占める水色のプールでは、水泳部員の泳ぎに合わせて水飛沫が跳ねている。夏の活気づいた日差しを浴びて煌めく水の様子をしばらく目を細めて眺めていると、疲労で重かった身体に次第に元気が戻ってくるのを感じた。