ここで息をする
「如月、もう少し離れて撮ろう」
「了解、ここならいいか?」
「ああ、大丈夫だ。佐原もレフ板、もう二、三歩下がってくれ」
「はい」
私達が居るプールサイドの真向かいでは、高坂先輩、如月先輩、佐原先輩の三人がプールの様子を撮影している。劇中の水泳部の練習シーンのために、リアルな水泳部の練習風景を撮らせてもらっているところだ。
高坂先輩が二人に指示を出す声が、水泳部顧問の三浦先生が部員にかける指導の声の合間にこちらにまで届いてくる。
私に熱烈な演技指導をしていた頃と変わらず生き生きと声を出している高坂先輩を見て、感嘆の声が漏れた。
「高坂先輩って、ほんとに映画が好きなんだろうなぁ……」
「だよね~。嶋田さんもそう思った?」
楽しげに笑っている高坂先輩をプール越しに真っ直ぐ見つめながら自然とこぼした言葉に、田中さんがすぐさま同意する。隣に座る彼女を見遣ると、私と同じように先輩を見ていた。それは尊敬の眼差しのように思える。
「映研部に入ってるだけあって、先輩達もあたしももちろん映画が好きなんだけどさ。高坂先輩はその中でも、映画が好きって気持ちが特別強いんだと思う。見てるこっちに伝わるぐらい」
「それすごく分かる。高坂先輩は、いつでも全力で好きって気持ちを前面に出してる感じだもんね」
指示を出したり、時には如月先輩と交代してカメラを覗き込んだり。そんな高坂先輩はとても楽しそうで、誰よりも生き生きとしていた。眩しすぎると思うくらいに。
決して他の人達が嫌々活動しているわけではないし、もちろんみんなが好きでこの部活に入って真剣に活動していることは、まだ短い付き合いの中でも十分分かっている。
ただ、高坂先輩が飛び抜けているんだ。