家族の絆
 それともう一点、この書類の中でおかしなところがあった。それは送金者の名前がMr. S. Kenとなっていたことである。おそらく、Mr. K. Shanaを誤記したのだろうと思った。
 こういった、公の書類に名前を間違えたりするものであろうか?いろんなところにほころびが露呈していた。

 UFH銀行のウェブサイトにも、再びアクセスしてみた。先週には口座残高が表示されていたが、今回は、『アクセス不可』という文字と伴に『口座番号が存在しないか、暗証番号が間違っています』と表示されて、アクセスできなくなっていた。
 ともかく、南アフリカに戻って、別のステップで処理をするようにということは、UFH銀行に送金されたこと自体が無意味なことのように思えてきた。そのために、Step 1. の返還申請に伴う金額とStep 2. の返還の許諾および返還処理の罰則金は、全く余分な事項ではないかと思った。

 その夜はロバートに電話をしたが、3つのステップを履行するように何度も同じことを繰り返すだけだった。実際に、今となっては遅すぎるのかもしれないが、初めに依頼されたように直接ヨハネスブルグに出向いて契約書に署名をすれば良かったのかと思ったりもした。祐一の気持ちはまだ、一縷の望みを期待していた。
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